街の風景の中で

 

佐賀県立点字図書館
館長  野口 幸男

 

 

利用者及びボランティア、ならびに点字図書館を支えていただいております皆さまに、日ごろよりの
ご支援ご協力に対しまして厚く御礼申し上げます。
 この図書館通信がお手元に届く頃は、立秋前後の時期でしょうか。残暑厳しき折、熱中症に気をつけていただきますようお願いいたします。
 私ごとですが、通勤に自動車を使わなくなって、色々と気づかされるようになりました。佐賀駅と点字図書館とは歩いて15分ほどの距離があります。中央大通りの5、600メートルの間に、なんと羊羹屋さんが3軒、ひとつ西側の細い通りには、お茶漬け屋さんが2軒あります。羊羹屋さんには入ったことがありますが、夕方開店のお茶漬け屋さんとは縁がないままです。駅からわが家への道のりも同じくらいの距離ですが、こちらは、「チェーン店 どっちを向いても チェーン店」という風景です。
 「どっちを向いてもチェーン店」の句は、「イナカ川柳」(平成28年4月10日発行 文藝春秋)という本からの引用です。「バス停が トトロに出てくる あの感じ」、「青年が 一人もいない 青年団」、「しまむらの 服着て今日も しまむらへ」等など、イナカにまつわる悲喜こもごもの句が掲載されています。本の表紙には、年配の女性が鍬で畑を耕している写真のそばに、「農作業 しなくてよいは ウソだった」の句に、投稿者のコメント、「―こんな娘がゴロゴロいるらしいです」。「サピエ」で検索してみると、「世界よ、これが日本だ!現代日本のイナカを笑いでくるんで詠む『TV Bros.』の人気投稿コーナーを単行本化」と、紹介されていました。(「イナカ川柳」の点訳は着手、音声版は日本点字図書館で製作されデータがアップされています。)
 ある時、わが街の豆腐屋さんを探してみると、なんと、一軒しか残っていませんでした。街中を自転車で売って回っていた豆腐屋さんのラッパの音も、耳の奥に残るだけになってしまいました。街で一軒の豆腐屋さんを訪ねて、米ぬかその他と混ぜ合わせて肥料を作りたいのでと説明してオカラを分けてもらいました。店の場所を尋ねた時、ご主人に教えられたのは「道を隔てて高層マンションが建っているから、それを目印にして」でした。
オカラだけではと豆腐も買いました。街の風景がどんなに変わっても、変わらぬ美味しさが豆腐にはありました。豆腐屋さんとのひょんな出会いから、21世紀の日本のイナカに住んでいることを十二分に堪能してみようかな、そんな気持ちがわいてくるのでした。
残暑を乗り切ると、初秋の気配がそこかしこに漂い始めます。くれぐれもご自愛ください。


                                

 

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